ドナー体験記
私の中ではすごいことではないんです
ake さん(岡山)
 私は、ご縁頂いて二度の骨髄移植のドナーとなりました。
 私が骨髄バンクに登録したのは、2000年の夏。以前から気にはなっていましたが、どこで登録できるのか、またどのようにして登録するのか、まったく情報が無い状態でした。
 が、突然どうしても”登録しなければ!”という思いに駆られ、それから情報を集め登録致しました。

 骨髄移植を行ったのは一度目は2003年1月、二度目は2006年1月です。

 骨髄移植の術例が増えている中、二度の骨髄提供者は私が行った時には108人目だという話を聞きました。
 結構いるものですね。
 一度も適合しない人もいる中で、こうして適合するということに驚いたのと同時に、私が、幼いころから大病もなく五体満足な体を与えられてるのは、こうして人のお役に立たせていただく役目があるからなんだな。と感じました。

 二度の移植、実はどちらも手術日間近で一旦延期されたのです。
 延期の連絡をコーディネーターの方から頂いたときは、患者さんの容態が急変したのかと心配しました。当然ながらこちらには患者さんのご容態も延期になる理由も知らされないのですから。(患者さんがよりベストに近い体調で手術を迎えれるようにとの配慮だったことは、後に患者さんのご家族のかたから頂いた手紙で知りました。)
 しかし、この延期のおかげで私の中で”患者さんも頑張ってるんだ、私自身もより一層万全な状態でその日を迎えなければ!!!”という思いが強くなり、決意新たに移植に向けての体づくりを行うようになりました。
 少しでも状態の良い骨髄液を提供し、患者さんの体に少しでも早く順調に着床するように大好きなお菓子を辞めたり、一本1000円する水を飲み続けたり。
 仕事も忙しくハードな日々を送ってはいましたが、規則正しい生活と、バランスの取れた食事を心がけました。
 ”人のために”っていう思いは、強いものですよね。
 結果として自分にかえってくるとはいえ、自分のためだけにはあれほど長期に亘ってお菓子を断つなんてことできなかったと思います(笑)
 そして、骨髄移植手術時には、ドナーの急な血液減少を補うため事前に採取しておいた自分の血液を点滴するのですが、その血液も一度採取したものは廃棄し、新たに採取することとなったので、コーディネーターさんと”患者さんのためにも、血液が一掃されて良かったですねーー。”なんて話しました(*´v`*)。

 この二度の手術の際、私の勤務場所は異なりましたが、それぞれに理解ある上司のおかげで、快く健康診断・最終合意・自己血採取等のための半休、また手術のための休暇を頂くことができました。
 仕事が休めないという理由でコーディネートを断念されるかたも少なくない中で、このような環境にいさせていただけたことは本当に有難いことだと幾度となく感じました。
 また、心配するのが当然の両親も、”あんたが決めてやることなんだから”と快く承諾してくれたこと、本当に本当に有難かったです。

 私自身、手術に際して全く不安がなかったといえばうそになりますが、でも、もし万が一のことがあったとしても、”それが私の人生だからよし。”って思っていたのでさほど不安はありませんでした。
 ただ、骨髄バンクの今後の為にも、ネガティブな症例はつくっちゃいかん!とは思っていました。
 一度目の術後、担当のコーディネーターさんからすてきな花束と一緒に頂いたことばは、”この度はかけがえのない善意を、生きるチャンスをありがとうございました。”でした。
 麻酔の副作用による吐き気で意識朦朧とする中、言葉にならない感情が込み上げてきて、ただただ声を出して泣いたこと、今でも鮮明に覚えています。
 ”チャンス” ・・・・・そう、あくまでも、チャンスなんです。
 私たちが患者さんに与えることができるのは、あくまでも生きる可能性なんです。分かってはいてもその現実が苦しくも感じました。
 術後は、日々、患者さんが一刻も早く元気になること、そして患者さんとご家族の方が幸せであること祈り続けました。

 そして、一度目の手術日は、私にとって、もうひとつの理由で忘れられない日となりました。
 実は、その日患者さんに私の骨髄液が移植されだしたであろう時刻に私の祖母が他界しました。
 祖母の最期には会えなかったけれど、祖母のことを考えると今でも目頭が熱くなります。

 ドナーとなってから、今もずっとあるおもいは、私の血を分けた”きょうだい”である患者さんに生きていてほしい、元気でいてほしい、幸せでいてほしい。ということ。
 患者さんから、そして患者さんのご家族の方から頂いた手紙は、私の大切な宝物です。骨髄移植は私にとっても必要な学びであったことに間違いありません。 

 骨髄移植を行ったという話をすると、よく”すごいね”という言葉を耳にします。私はその言葉を聞きたくないという理由で、移植を行ったことを伏せていた時期もありました。
 なぜなら、私の中ではすごいことではないんです。そのとき、私ができることをしたまでなのです。逆に、この世の中私には到底できないことも多分にあるのですから。
 ドナーに選ばれたから いい・わるい ではないのです。骨髄移植を行ったから すごい ではないのです。
 骨髄提供は当然ながら患者さん、ドナーとなる人はもちろんのこと、患者さんのご家族、ドナーの家族、患者さん・ドナーそれぞれのコーディネーターの方、患者さんの主治医の先生、手術を行うお医者先生、麻酔科の先生、看護婦さん、さまざまなお世話をしてくださる病院のかたがた・・・・・ここに挙げるとキリがないくらいさまざまなかたがたがいてくださるからこそ行うことができることなのです。

 人には一人ひとり、それぞれのお役目というものがあるのです。
 この世に偶然起こることなんて何一つとしてありません。
 ですから、登録をしているのにドナー候補になっていないという方は”ドナーに選ばれない=自分と同じタイプの方は健常なんだ”とよろこんでください。

 現在、三度目以降の骨髄移植は血縁者を除き認められていないそうですが、もし、今後認められるようになったとして三度目の適合連絡があったとしたら、私は躊躇することなくコーディネートをすすめることでしょう。
 それが、私に与えられたことであり、また、できることだから。